雨の多い季節だった。
私が会社の最寄り駅を出て、少し歩いたところで、バケツをひっくり返したような大雨が降りだした。
折り畳み傘を開くのも鬱陶しかったので駆け足で社屋に駆け込み、IDをかざしてゲートをくぐる。
その瞬間、床に溜まった雨のしずくに滑り、転んだ。
強かに腰を打った。
しばらく起き上がれなかった。
このまま寝ていようかなというやけっぱちな考えが浮かんだが、そうしたところでどうなるわけでもなし、ゆっくりと立ち上がり、心配する後続の社畜と守衛に聞こえることもいとわず、
「空と季節も私を嫌うか、死ねよ」
という誰にともわからぬ呪詛を吐いた。

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足元を見ていないと雨に滑ります。
だが、前を見なければ先に進めません。

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こんな文章が、確かカミユの異邦人でもあった。
かなり最初の方で、養老院で死んだ母親の葬儀に参列するくだりだ。
参列者か看護士の言葉だったはずだ。

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「ゆっくり歩くと日射病になります。
でも早く行くと教会で汗が冷えて風邪をひきます。」
そして「彼女は正しい。逃げ道は無いのだ。」と続く。

不条理。
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