タイトル:貧乏はお金持ち
著者:橘玲
出版社:講談社

橘玲の著作を読むのは「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」と「(日本人)」に次いで3冊目になる。
氏の著作は全体としては雑駁とした印象を受けるものもあるが、現代日本で当然と考えられていることに歴史的・国際的な比較の視点をエビデンスとともに提示するため、読んでいて小気味よい。

本書は、自由に生きるための知識として、小規模なビジネスを営む上で必要になる①法人、②会計、③税務、④ファイナンスの知識を提示する。
この、「貧乏はお金持ち」というタイトルは、事業用のビークルとして法人を持ち、個人としての自分は貧乏になりながら法人の持つ制度的な恩恵を利用することで個人・法人の連結ベースではお金持ちになる、ということだ。
私は会社法とファイナンスについては自分でも相応に取り組んできたつもりだが、本書の説明はいずれも巧みだと感じた。
夢を見るときは徹底してリアルでなくてはならない。

以下、興味深かった点を挙げる。
・世代間の不均衡が是正される可能性は極めて低い。
強い解雇規制のせいで企業の多くが余剰な人員を抱えており、生産性の低い中高年が年功序列で高い賃金を得る。

・厚生年金と組合健保が有利だった時は10年以上前に終わっている。
厚生年金も一階部分は未納率の極めて高い国民年金と共通。
国民年金の徴収率を上げるのは難しいから、源泉徴収のサラリーマンから取る。
組合健保は扶養家族が多くない限り保険料が国民健康保険よりも割高。

・ビジネスは無限責任が原則。
東インド会社の時代には、株式会社の設立には国王の勅許が必要だった。
それが現代ではだれしもが有限責任のビークルを設立できる。

・合同会社はパススルー課税が認められない不完全なLLC。
ただし、公証人に支払う定款認証手数料5万円が不要で、登録免許税が9万円安い。

・会社設立の実務も簡素化されている。
銀行の発行する出資金払込証明書は不要になり、振込の履歴があれば良い。
また、裁判所の検査等が必要でハードルが高かった現物出資は500万円以内なら取締役の調査報告書で良い。(資本充実の原則的にはNGじゃないかね。)

・資産の過大計上または負債の過小計上で純利益を増やすのが粉飾決算であり、資産の過小計上または負債の過大計上で純利益を減らすのが脱税、やってることは同じ。

・LTCMのレバレッジは実に250倍(規制前のFXの上限と一緒)だった。
自己資本50億ドルに対してファンドの総資本1200億ドル(24倍)、デリバティブの想定元本は1兆2500億ドル(総資本の10.4倍、自己資本の250倍)だった。
(LTCMはレラティブバリューのヘッジファンドなので、国債や為替などの値動きの小さい資産を対象としていただろうし、ロングとショートのファクターエクスポージャーをネットすれば取っているリスク量は少なかったのだとは思うが、さすがにこれは草が生える。)

・公的融資制度は与信判断ではなく手続で融資を決定する。