タイトル:今夜、すべてのバーで
作者:中島らも
出版社:新潮文庫

私は依存的な酒飲みだ。
アルコール依存ゆえの奇行について「アルコール依存」カテゴリで書いているのでよろしければそちらもご一読ください。
これを書いている時点では、なんとか断酒が3ヶ月弱続いている。

以前に、アルコール依存症者がたてた2ちゃんねるスレのまとめ記事を何処かで読んで、そこでアル中に関する本として本書と吾妻ひでおの『アル中病棟』が紹介されていた。
どちらも著者自身がアルコール依存に依る入院経験があるのでリアリティがある。
実を言うと中島らもの小説はこれしか読んだことがない。

本書では主人公の小島容(いるる)が、アルコール依存症による肝炎で入院するところから始まる。
病院の人々や近しい人との対話や、亡くなった友人への追想により物語が進んでいく。

依存症の作家が書いた物語なだけあって、アルコール依存症者の思考や行動に関する記述が正確で、思わず「よく分かってんじゃねぇか」と膝を打ちたくなる。
依存症者にとって、依存症の人物が登場する物語を読むことは救いだ。
さらにこれは依存症者が書いた物語でもある。
他の依存症者の行動を知ることで、自分に特有の悪夢だと思っていた依存症が、多くの人が苦しんでいる悪夢であることがわかる。
自分以外にも苦しんでいる人がいるとわかれば、それらの人々の対処法を導入することで、戦う手段を得ることが出来る。
どこまで戦い続けられるかはやはり本人次第なのだが、洞穴の奥で苦悩するよりは勝算のある戦い方だと思う。
戦うためには知らなければならない。

◯アル中になるかどうかは酒が好きか嫌いかの問題ではなく、必要か不必要かの問題。アルコールの薬理作用を必要としている場合はアル中一直線。
酒が好きな人間がアルコール依存症になるかというとそんなに単純ではない。
困難な今日を忘れたい。取り返しの付かない過去を忘れたい。逃れられぬ明日を忘れたい。
依存症者はそのためにアルコールが「必要」なのだ。
薬理作用としての酩酊と万能感を得るために飲む。
美味いから飲むわけではない。
事実、私も度数の高いチューハイ、合成清酒、コンビニのオリジナルブランドの廃糖蜜焼酎、ギルビーのウォッカ、ウィスキー凛などを愛した。
エチルアルコール1単位あたりの価格を縦軸、胃袋への入れやすさを横軸にとり、右下に位置するモノたちを愛した。
働くのに嫌気がさしてからというもの、まっとうな日本酒やウィスキー(右上にいるような酒達)は金が惜しくて飲めなくなっていた。
思い返してみれば、ここまでいく前のことだが、若い頃から酒を飲まなければ女と話せなかった。
飲み会の時間は苦痛だったので、アルコールの力でなんとか円滑なコミュニケーションをとっていた。
酒は私にとって常に道具だったことに改めて気づく。

◯依存症のもたらす連続飲酒。「眠っている間と働いている間、昼飯を食っている間と風呂、糞、朝の電車。それ以外の時間はすべてグラスの底をながめることに費やしたのだ。」
私も、平日は仕事が終われば最寄りのコンビニで酒を求め飲み始め、休日は朝起きたらすぐに飲み始めるという生活をしていた。
何をするにも酒が必要なのだ。
アルコールのもたらす万能感がなければ、人と会うことも、電車に乗ることも、考え事をすることも出来なかった。
毎日見たくない現実が起きていたので、それと戦うため許される状況で常に酒を摂取していた。

◯酒を呑むことが目的。「たいていは独りで飲んだ。同僚の仕事の愚痴を聞くのはまるで仕事をしているみたいで嫌だった。カラオケも女がいるキャバレーやバーも反吐が出るほど嫌いだった。」
勤務中以外連続飲酒状態だった時であっても、私は店で酒を呑むことは無かった。
人との関係で疲弊している人間が積極的に人のいるところに行く理由は何処にもなかった。
会社の人間も家族の人間も嫌いだった。
店で給仕する人間も嫌いだったし、道ですれ違う人間も嫌いだった。
少数の心許せる友人と会う時も、酒を飲んでいる状態で無ければ会えなかった。

◯日本はアルコールが入手しやすい
ここでも書いたが、日本のアルコールの入手のしやすさは異常だ。
夜中の2時であっても、コンビニに行けば銘柄はどうであれウィスキーを購入することができ、「ありがとうございました」と感謝すらされる。
昼間からアルコール飲料のCMテレビで垂れ流すし、漫画でも酒は安らぎやカッコよさを与えてくれるアイテムとして登場する。

◯アル中の原因がわかるのはすべての依存症の原因がわかる時
確か、禁煙セラピーの著者のアレン・カーも似たようなことを行っていた。
煙草依存をやめられれば同じ方法で他の依存もやめられる、と。

私なりに感じた依存症への対処法は、
1.自分は「依存の対象」を別の目的のための道具として使っていることを理解する。
2.「依存の対象」では、自分が本当にしたい目的を成し遂げることはできず、「依存の対象」がもたらす効用でその場を誤魔化しているだけであることを認める。
3.自分の本当の目的を達成するための方法を実行する。
の3ステップだ。
私の場合は、3.の本当に達成するための方法は実行できていない。
それは会社で働くのをやめて、今の蓄えの分だけ遊んで暮らし、その後消えて無くなることだからだ。
とりあえずもう少し穏当な方向にして、「会社に雇われないで生きられるようにする」ことを目的として、いくつか行動を始めた。
なお、アレン・カーは2006年に肺癌で死んだ。


今夜、すべてのバーで [ 中島らも ]
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