タイトル:お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方2015
著者:橘玲
出版社:幻冬舎

おそらく橘玲の著作の中で、最もベーシックかつ網羅的な内容の本だと思う。
記事は3つに分けて書きたい。

初版の出版が2002年で、2014年にアップデート版が出版された。
初版の骨子は「資産運用」「法人の活用」「海外投資」の3つだったが、アップデート版では「海外投資」の項は無くなっている。
これは、海外への資産移転による租税回避スキームに対抗して世界的に制度が大きく変わったため、大幅なアップデートが必要になったためとのこと。
(海外取引や外国投資を仕事にしている人はここ数年FATCAやOECDのCRS(共通報告基準)への対応を求められていることだろう。)

氏は、社会制度における不合理な点、公平性に欠けた部分が富をもたらす「黄金の羽根」であると指摘する。

特に「法人の活用」の項については、社会保障制度の維持のために行われているサラリーマンと大企業に対する収奪の実態を示し、自営業者、マイクロ法人の経営者となることによる「黄金の羽根」の拾い方が具体的に提示されている。

一方で「資産運用」については常識(多くの場合、常識は一般人の考えと言う以上の価値を持たない。正確性も道徳的な正しさも保証しない。)的な考えの欠陥を指摘する一方、じゃぁどうすりゃいいのさという点の言及が特に無い。
株式のアクティブ運用は無意味で、インデックス運用も絶対額で見ると米国株以外だと成り立たない期間が長い。
短期トレーディングは、テラ銭の安いギャンブルとしては優れているが、その基になるテクニカル分析にはエッジが無い。
では、氏の考える効率的な資産運用とはなんなのか、気になる点が残った。

◯不動産の所有について
氏は、日本人は右肩上がりで不動産価格が上昇するという期待を背景に、住宅ローンにより大きなレバレッジを掛けて住宅を購入し、資産を形成してきたと指摘する。
日本人が堅実なんてとんでもない話だともいう。
確かに、堅実な人間が20年、30年の返済計画で年収の5倍の住宅を購入するなど変な話だ。

賃貸と持家で有利不利はなく、住宅価格は賃貸にした場合の賃料を適切な期待リターンで割引き、残存価値を割り引いたものの和に等しいと説明する。
この説明はコーポレートファイナンスや債券の評価と全く同じなので、明快だし数学的にも正しい。
賃貸物件の価格をざっくり出したかったら、年間の賃料を期待収益率で割れば良い(永久債の価格と同じ)。
期待リターン5%なら20を掛ける、期待リターン10%なら10を掛ける。

同レベルの物件で比較すれば、賃料と住宅ローンの返済額では後者の方が割安な場合が多い。
これは単に後者には住宅価格の変動に対するプレミアムが含まれていないからである。
また、持家はローン返済後に資産になるという説明もよくなされるが、30年ローン返済後の住宅に資産としての価値は無い場合が多い。

私はこの視点には全面的に賛同で、持家信仰は右肩上がりの住宅価格に基づいた不合理なものだと考えている。
ただ、住宅価格の上昇期待がある中では、レバレッジを掛けた不動産投資(≒持家の購入)はそれなりに意味があったのかもしれない。
実際に金融危機後の直近6年間に大都市圏でマンションを購入した人はかなり儲かっているだろう。
レバレッジを掛けた高額の投資に勝ったからだ。
もちろんこれは、住宅を保有するREITを購入することでも良い。
伊藤忠商事がスポンサーをしているアドバンス・レジデンス投資法人(3269)という住宅REITがあるが、2010年の公開時に11万円だった株価が足元では28万円程度まで上昇している。
実際にはREITは買えなくても家なら買えるという人が多い、。
多くの人が持家に特殊な価値を見出していることの証左だろう。

ただ、この国は住宅を借りることのハードルが高い。
戦後から経済成長期にかけての住宅が不足していた時代の慣行が残っているためとも考えられるが、借地借家法で賃借人の権利が強く保護されすぎているのも一因だと思う。
更新ができるのが当たり前で、さらに家賃の不払いがあっても簡単には賃借人を追い出せないようになっている。
一見賃借人に有利だが、この分のコストは当然賃料に転嫁されるし、短期解除の違約金などという法の規制の及ばない特約で月額の賃料以外の収益を得ようとする。
(異論の多い礼金だが、これは人気のある物件の賃貸人がアップフロントで一定の資金を回収したいためという現代的な意味付けをすることが可能だと思う。)
特に定期収入を失ったり年を取ると、自由に家を借りることは難しくなるだろう。
本書では語られなかったが、これは持家に特殊な価値を与えている要因の一つだと思う。

中編に続く。次は不動産以外の資産運用ついて。~