タイトル:星の王子さま(原題:Le Petit Prince)
著者:サン=テグジュペリ(邦訳:河野万里子)

いろいろな人の著作で本書が引用されいてる、とても有名な本。
通して読んだことが無くても『本当に大切なものは目には見えない』というフレーズを何処かで聞いたことがある方は多いと思う。
砂漠に飛行機が不時着し途方に暮れる一人の青年。
彼の前に一人の少年が現れる。
二人の会話を通して物語が進んでいく。

30分もあれば読み終わるくらいの分量だが、一つ一つのエピソードが寓話めいている。
ツンデレのバラ
星に住まう変人達、王様、大物気取り、実業家
友情を語るキツネ
さしずめ超絶寓話ラッシュ。
穿った見方をすれば随分と説教臭い物語だ。 


私としてはアル中らしく、酒浸りの男のことを取り上げる。
王子様が自分の星を出て2つ目にたどり着いた星には酒浸りの男が住んでいた。
(王子様)どうして飲むの?
(酒浸りの男)忘れるためだ。
(王子様)何を忘れたいの?
(酒浸りの男)恥じていることを忘れるためだ。
(王子様)何を恥じているの?
(酒浸りの男)酒を飲まずにいられないことだ!
そして男は沈黙する。

中島らもの『今夜、すべてのバーで』でも冒頭でエジプトの小話が引用されている。
何故そんなに飲むのだ?
忘れるためだ。
何を忘れるのだ?
そんなことは忘れたよ。

この、「忘れるため」という言葉は依存症者の心情をうまく表している。
本来、依存症者がなんとかしたい苦悩や苦痛は酒とは別のところにある
酒は一時それを忘れる手段だ。
だが、忘れて目の前から追いやるばかりでは、苦悩も苦痛も一向に解決しない。
(幸福な偶然が解決することもあるかもしれないが、稀だ。)
「酒を飲まずにいられないことを恥じている」と言って沈黙した酒浸りの男も、本当は別のところに苦悩の本体がある。
だが彼の思考はそこまで及ばない。
苦悩に面と向かって対処するのは酒を飲むよりずっとしんどくて、面倒臭くて、痛いからだ。

過去が怖い、未来が怖い、過去と未来の両方に挟まれた今が怖い。
ゆえに、酒で今を殺す。
そうすることで過去も未来も殺すことが出来る。
我々は、過去と現在と未来を繋いだものを、人生と呼ぶのだが。


星の王子さま (新潮文庫)
サン=テグジュペリ
新潮社
2006-03