タイトル:フリーエージェント社会の到来
著者:ダニエル・ピンク(邦訳:池村千秋)
出版社:ダイヤモンド社

米国における自営業者の実態に関する調査報告。
米国では、本書の執筆時点で3,300万人の自営業者(フリーエージェント)がいるとされている。
しかし、その実態については国勢調査や雇用統計でも正確な把握が出来ていない。

著者は、クリントン政権下でロバート・ライシュ労働長官とゴア副大統領のスピーチライターとして、合衆国政府の中枢において勤務した経験を持つ。
30代半ばにホワイトハウスにおける職を辞して以来、自身もフリーエージェントとして執筆活動に従事している。
本書は、著者が勤め人としてのキャリアの末期に、仕事のプレッシャーと過労からホワイトハウスでゲロを吐くところから始まる・・・。

原著の出版は2001年なので、すでに15年前である。
にも関わらず、現代の日本に当てはめても違和感が無いことに驚く。
当サイトでも取り上げたことがある橘玲ちきりんは、本書の考え方にかなり影響を受けているように感じた。
働き方本におけるタイムマシン経営ということなのかもしれない。
特に、現在のはオーガニゼーション・マン(組織人)としての働き方に辛さを感じている方は、1~5章を読んでみると自分の苦悩の根幹が見えるかもしれない。

◯フリーエージェントの台頭は企業と社会の変化の要請であるということ
「日本が終身雇用を前提としている一方で、アメリカは解雇規制が柔軟」というのは、ここ10年くらいのトレンドである。
80年代までは、米国の大企業の多くが雇用の維持を最優先事項とした家族経営をしていた。
AT&T、コダック、IBM、いずれも後に大規模なリストラを余儀なくされる。
技術革新とビジネスのスピードの加速、新興国の台頭、成長分野の減少、そのような成熟した経済で終身雇用を維持することは、競争力の低下と企業体の破綻をもたらしかねない。
本書ではこの過程を端的に『経済の「子供時代」の終焉』と呼んでいる。
その他に、フリーエージェントの台頭の背景として「ITの発達により生産手段が安価になったこと」と「経済の繁栄により働き方を模索する余裕が出てきたこと」が挙げられている。

◯フリーエージェントとは何か
本書ではフリーエージェントを、フリーランス、臨時社員、ミニ起業家、フリーエージェント社員の4類型に分類している。
ミニ起業家というのは橘玲の言うところのマイクロ企業とだいたい同じだ。
起業というと一般的にハイリスクを取りつつ規模の拡大を目指すようなイメージがある。
だが、マイクロ企業は規模の拡大は目指さず、マネージ出来る範囲の事業を行いつつ法人に与えられる制度上のメリットは享受することが目的だ。
また、フリーエージェント社員は組織で雇われながらもフリーエージェントのように働くようなスタイルだ。
フルフレックスで納期までにアウトプットを出すことがジョブディスクリプションであれば、フリーエージェントの働き方をあまりかわらないだろう。
一般的な大企業では聞かないが、ベンチャー企業や外資系企業の一部の部署では日本でもありそうだ。

また、フリーエージェントの価値観を以下の点から説明する。
自由・・・プロテスタント的な禁欲的労働観からの解放、社内政治からの解放、仕事の選択の自由、インターネット監視
「心の乾きを癒すのは(勤め先の用意する)無料のコーラではなく、自由なのだ。」
自分らしさ・・・組織の最適化は個人の犠牲の上に成り立つ。Work is personal.
責任・・・フリーエージェントは自分の仕事に自分が責任を負う。理解の足りない上司の判断を仰ぐ必要はない。また、組織は怠け者に必要以上の給与を与え、有能なものに必要十分な給料を与えない。
成功・・・オーガニゼーション・マンとして得られる成功は、給与の上昇、出世、事業の拡大が主な部分だ。しかし、これは必ずしも万人にはあてはまらない。
本書では、フリーエージェントのこれらの価値観について、テイラーシステムに拠ってもたらされたTaylor-maidの働き方ではなく、Tailor-maidの働き方を志向していると評している。
また、未来の成功のために現在を犠牲にするのではなく、現在の仕事を楽しむ点に力点を置く。
アドラー心理学における「人生は連続した刹那」と繋がる。

◯その他
・企業への忠誠心は新しいアイデアを阻害し、個人を押さえつける。
企業が保障をやめた時、オーガニゼーションマンも忠誠を失った。
フリーエージェントは、組織への忠誠心ではなく、チームや同僚、職業や業界、顧客に対するロイヤリティを軸にする。
・フリーエージェントを阻む既存の制度として、自宅をオフィスに使えない法制が一部の州にあること、医療保険の加入が基本的に会社単位であること、社会保障税が全額自己負担になることなどを挙げている。
これは日本でも当てはまることもあれば当てはまらないこともあるなと思う。
源泉徴収について面白い記述があった。
米国で所得税が課税されるようになったのは1913年、源泉徴収が始まったのはその30年後だ。
当時は第2次世界大戦の最中で、議会は所得税の増税を決定する。
ニューヨーク連銀の幹部であったメーシーズ出身のビアーズレー・ルムルという男が、メーシーズ時代に、顧客が一括で大金を支払うよりも分割で支払うことを好んだという経験から源泉徴収を導入したという。
・義務教育はオーガナイゼーション・マンを生み出す装置。
時間割、教師、予鈴など、近代的な工場と似ている。