タイトル:ウォール街のランダム・ウォーカー 原著第11版(原題:A Random Walk Down Wall Street)
著者:バートン・マルキール(邦訳:井上正介)
出版社:日本経済新聞出版社

駆け出しのころ1回読んだが、先般、タイムリーに新版の訳本が出版されたと知り再読した。
本書は、米国の実務家ではなく一般的な個人投資家向けの投資指南書として書かれている。
(『一般的な投資家』がこのレベルの内容を理解しているとしているとすると米国は非常に恐ろしい国だ。
実際に手を取るのは向学心のあるハイアマチュアや学問的権威に弱いインテリ中間層だと思う。)

本書の主張は一貫している。
テクニカル分析に基づくトレードも、ファンダメンタルズ分析に基づく投資も、長期間有用であったという実証はされていない。
ゆえに、株式投資の最善の法は、インデックスファンドを時間分散で購入することだ、という主張である。

著者は、プリンストン大学で教鞭をとったアカデミアに属する人物である。
一方で、ウォール街における実務経験もあり、教授職を得てからはパッシブ運用の代表的な運用会社であるバンガードグループの社外重役も長年勤めていた。
記憶が正しければ、バンガードの関係者だからこういう主張をしているというわけではなく、こういう主張をしていたからバンガードに招聘された、という順番のようである。

アクティブ運用が手数料に見合った運用成果を実現することは難しい。
少なくとも、「一般的な個人投資家が手数料に見合った運用成果を実現するアクティブマネージャーを見つけることは難しい」という主張には異論はない。
一方で、インデックス運用について歯痒さを感じる局面があるのも確かだ。
その時々の相場で、GICSの24業種または東証の33業種で、この業種にはポジションをとらなくて良いだろう、というセクターが2つ3つはある。

私が感じた本書の最大のインプリケーションは以下の点だ。
「精緻な分析でこの銘柄には市場から過小評価されているということが判断できるとしても、それが是正される日がいつ訪れるかは分からない。」
現実はきまぐれだ。
先日のPokemon Goのリリースによる任天堂株の急騰を見ても、同社の持つコンテンツの価値が市場に再評価されるタイミングが、今この瞬間であったと事前に予測できた人間は多くないだろう。
市場がミスマッチに気づくタイミングについて賽を振ることと比べると、市場全体に対してポジションを取ることは極めて現実的な対応だと考えられる。
もちろん、本書でも勧めているが、ある程度資金があって、株式の売買が可能な立場にいる(今の日本では会社の過剰な自主規制で株式を自由に買えない人間が多すぎる)のであれば、自分が成長が見込めると考える銘柄20銘柄くらいに長期的なスタンスで投資することは理にかなっているし、何より面白い。

最後に、日本のマスリテール向けの投資信託販売について言いたい。
売ってる人と作ってる人は分かっててやってるのだと思う(それだけ罪深い)。
推奨されるままに買っている人は圧倒的に勉強が足りない。
そのお金を稼ぐために、自分がどれくらい望まない労働に耐えてきたか考えて欲しい。

1.銀行や証券会社の営業担当者が推奨する販売手数料3%取るようなファンドは、投資の開始時から投下資金が3%減少した状態で始まる。
そんなものを勧める人間を果たして信頼してもいいのか、フラットに考えて欲しい。
2.基準価額の水準はファンドの運用成績とも今後の方向性とも全く関係ない。
上昇局面の初期に設定した基準価額20,000円のファンドが割高なわけではないし、株価が高いところで設定した基準価額6,000円のファンドの運用成績が他の運用者と比べて劣るわけではない。
3.特別分配金について理解して欲しい。
基準価額8,000円で買ったファンドが7,500円まで値下がりしてしまい、その状況で毎月100円分配金が出ても、それは自分が出資した分を払い戻しているに過ぎない。
基準価額が下がっているということは、キャピタルゲインとインカムゲインの合計では収益は発生していないのだから。