タイトル:働かないって、ワクワクしない?
著者:アーニー・J・ゼリンスキー(邦訳:三橋由希子)
出版社:VOICE新書

「世の中で最も危険な本」と評されている。
タイトルだけ見ると誤解されやすいが、別に無職礼賛の本ではない。
自由時間の価値を見直して、人生のウェイトの置き方を考えなおすことを提案する本である。
特に、下で紹介する「自由時間にやりたいことの特定」「受動的な活動より能動的な活動」という点は、仕事が充実している人が読んでもためになると思う。

本書のもたらす思想は、現代の職業人・組織人にとっては、良く言えば啓蒙、悪く言えば毒だ。
本書で述べられる自由時間に対する考え方は前向きかつ建設的だ、
だから読んだ当初は「『最も危険な本』なんて大袈裟だなぁ、読んでよかった」と思っていた。
ただ、本書をはじめとした働き方に関する本を読み、労働観と人生観について見方を広げて、自分がやりたいことと向き合うなかで、それまで持っていた「仕事のやりがい」が霞んでしまった。
賃金収入を得なければ生命を維持できないがゆえに、「仕事のやりがい」という虚構を自分の中に作り上げ、それにすがっていることに気がついてしまった。
以来、人生を奪われているという感覚から離れられない。

著者のゼリンスキーは政府関連の公共団体で働いてた。
3年間休暇を取らず働き、耐えられなくなり10週間の休暇を取ったがゆえに解雇されたとある。
それ以来定職について働いていないとのことだ。

◯職場が嫌いな25の理由

本書の第5章にある「職場が嫌いな25の理由 」は本書の中で圧巻だと思う箇所だ。
私が大きく同意したのは以下の点だ。
・リストラの結果仕事量が多くなりすぎている
・10年前にクビを切られているべき世間知らずや役立たずと一緒に働かなくてはならない
・生産性は低いのに長く務めているというだけで自分より多く給与を得ている人がいる
・不必要なペーパーワーク
・胸が悪くなるような仕事中毒者と一緒に働かなくてはならない
・自分たちは革新的だと宣伝するのに、革新的な人々をサポートしない組織
給与所得者ならさもありなんという項目ばかりだと思う。
というか、25項目の内、「駐車場が十分にない」以外の24項目はすべて同意できる内容だった。

◯自由時間にしたいことの特定

待ち望んだ週末なのに、つい朝から酒を飲んでまとめサイトやニコニコ動画を巡回して過ごしてしまうことがある
休日をどう過ごしていいかよくわからず、漫然とイベントや会食の予定で埋めてしまうという友人もいた。
本書では、自由時間を楽しむためのアイデアとして、自分の自由時間のオプションを書き出すことを勧めている。
マインドマップのように、中心の「私の自由時間のオプション」から枝を伸ばし、以下の3つの項目に分けて、少なくとも50個以上のアクティビティを書き出すのだ。
・現在、夢中になっている活動
・以前、夢中になっていた活動
・したいと考えている新しい活動
可能な箇所は一つ目のアイデアから更なる枝を伸ばし、より具体的な行動にする。
例えば、「以前、夢中になっていた活動」に「ギター」があるなら、新たに習得したい楽曲を挙げてみたり、若いころに中途半端で終わってしまった「作曲の勉強」を付加するといった具合だ。
このように書き出してみると、人生にはやるべきことがたくさんあることに気付くだろう。
労働ですり減っている場合ではない。

◯受け身な行動より能動的な行動

上で紹介した「自由時間にしたいことの特定」が書かれているのは本書の第七章だ。
そしてその章の表題は「誰かがおこした火で暖まるのではなく、自分で火をおこそう」である。
本書では、マズローの階層論を引用し、受動的な活動より能動的な活動を勧めている。
受動的な活動の中に、テレビ、ショッピング、過食と並んで「酔っ払うかドラッグでぼんやりする」ことが挙げられている。耳が痛い。
アル中の話でも書いたが、人間は往々にして、「大きな楽しみをもたらすこと」よりも「楽しみは小さいが簡単に楽しみが得られること」を選択してしまう
(関連記事:アルコールは安易な快楽
興味のある分野の本を読んだり、ブログの原稿を書くことは楽しいが、私の生活の中では相対的に頭を使う行動だし集中力も必要だ。
それよりも、朝から酒を飲んでまとめサイトで「画像で笑ったら寝ろ」を順番に見てしまったりする。
その方が簡単だからだ。

だが人生は有限だ。
酔っ払うことに長い時間を費やしていると、他のことをする前に死んでしまう。

◯資金面の解決方法は書かれていないので注意

減速して十分な自由時間と共に生きるにあたり、どのようにして資金を得るべきなのかには触れられていない。
私の考える本書に対する最大の不満だ。
著者は、本書を始めとして何冊かの著作があり、それらが商業的にも相応に成功を収めている
すなわち、資金面に関しては「リスクを取って自分の事業を行い成功した」というモデルだ。
結局行き着くところは、「『自由時間でやりたいこと』で死なない程度の所得を得る」ことなのではないか。
でもみんなそれに自信が持てないから辛くても会社で働いているんじゃないか。
お金の限界については本書でも書かれているので、それと絡めてこの点に触れて欲しかった。
私は賃金労働が嫌いだが、今の仕事は相対的に時給換算の給与が高く担当者の裁量もあるという点で手放し難い。
これよりひどい仕事は、いくらでもある。
条件も職務内容も酷い仕事が、火を付けて灰にして、掃いて捨てて、 水をかけて洗い流して、それでも無くならないくらい多いのだ。

※ゼリンスキーの別の本も読んでみたのだが、稼ぐ方法は頭を使って自分で探せとのことだ(怒)
関連記事:『ナマケモノでも「幸せなお金持ち」になれる本』具体的な方法は個々人で探せと

・第九章「今この瞬間に生きよ」第十章「くだらない仲間といるより一人になれ」はアドラーの思想と繋がるものがある。