続きものです。
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日銀は7月の金融政策決定会合で、マイナス金利を維持した上で、ETF(上場投資信託)の買い入れ枠を倍増させると決定した。
私見を述べると、明るい未来が見えない現状では金融政策はもう限界なんじゃないかと考えている。
「その1」にあたる本稿では、そもそも金融政策って何をやってるのかについて書く。
ホントは金融政策についてこんなに書くつもりはなかったが、うろ覚えのことを調べてまとめていったら思いのほか長くなってしまった。
成長しないから消費できないについてはその2で書いています。

「金融政策」の定義

「金融政策」というのは、日銀やFRBなどの中央銀行が行う、利子率の変化や資金供給の増減を通して経済の動きを調整するための政策だ。
なお、「財政政策」は、財務省(政府)が行う政府支出の増減を通じて経済活動を調整する政策だ。

政策金利の時代

伝統的に金融政策は「政策金利」の操作によって行われてきた。
例えば、経済が過熱気味で資金需要が旺盛なときは政策金利を引き上げてお金が出回りにくくする
そうすることで過熱をちょっと冷ますことができる。
逆に、経済活動が落ち込んでいるときは政策金利を引き下げ、お金が世の中に回りやすくする。
昔は、日銀が民間の金融機関に資金を融資するときの利率である「公定歩合」が政策金利だった。
この公定歩合という言葉は、死語になりつつある。
私が小中学生の頃の公民の教科書には載っていたが、今の教科書には多分載ってないだろう。
なぜ公定歩合が死語になったかというと、1994年に金利の完全自由化があり、政策金利が「無担保コール翌日物金利」に変更されたからだ。
無担保コール翌日物というのは、金融機関の間(インターバンク)でお金を融通しあう時の金利の基準値のことだ。
1995年以降は、日銀は民間金融機関から手形や国債を買い入れること(買いオペ)で市中の資金量を調整し、無担保コール翌日物金利を誘導していた。

量的緩和の時代

いずれにせよ、政策金利の変更が伝統的な金融政策だったわけだが、これは日本だと2000年台初頭に重視されなくなる。
なぜかというと金利は通常ゼロよりも下げられないからだ。
インフレ率が低いままで経済活動が一向に改善しなくても、政策金利がゼロになってしまうとそれ以上やりようが無くなってしまう。
「政策金利をゼロにしても、金融機関の顧客に資金需要が無ければお金は市中に出回りませんでいたとさ。
政策金利はこれ以上下げられないので、中央銀行はデフレにも不況にも敗北してしまいましたとさ、どっとはらい。」
これじゃいかんので「量的緩和」という考え方が出て来た。
ゼロより下げられない金利に替えて、市中に供給する資金の量を金融政策の目標にするのだ。
2006年までの量的緩和政策では、供給量の目標には日銀の当座預金残高が用いられた。
日銀当預は、民間の金融機関が日銀に開設している口座のことだ。
普通の当座預金と同様に利子が付かないので、日銀当預にお金を寝かせておくよりは貸出に回そう、という流れになることが期待された。
日銀は買いオペで民間の金融機関から手形や国債を買い、民間銀行の日銀当預に資金を供給したのだった。

今起きていること

では今の経済サイクルでは何が起こっているか。
日銀は2013年4月に量的質的金融緩和を打ち出した。
内容は都度拡充されているが、重要なポイントは資金供給のために買入れる資産の幅が拡大していることだ。
残存期間の長い国債も買入れるようになったし、ETF(上場投資信託,Exchange Trade Fund)や上場REIT(不動産投資信託,Real Estate Investment Trust)の買い入れ枠も拡大した。
日銀がETFをどれくらい買っているかというと2013年、2014年が年間1兆円強、2015年は年間3兆円、そして今後はそれを倍増し年間6兆円ペースで買入れるとしている。
購入対象のETFは日経平均やTOPIXに連動するものなので中身は全て日本株だ。
多くの識者が指摘しているが、国債はいずれ償還されるが、株は償還されない
将来的に緩和を縮小するときにはETFを市場で売却することになるが、それは株価の下げ圧力になる。
そして保有している間の価格変動リスクは日銀が負うことになる。

もう一つの要点が、2016年1月のマイナス金利の導入だ。
欧州では日本に先行して採用されていた政策である。
量的緩和のくだりで「金利は通常ゼロより下げられない」と書いたが、それをゼロよりも下げてしまうのだ。
具体的には、民間金融機関が日銀当預にお金をおいておくと、マイナス金利を日銀に支払わなければならなくしたのだ。
このマイナス金利だが、リテール預金口座には転嫁されていない(欧州でもされていない)が、一部の法人向けの口座にはすでに転嫁されている(=口座に円をおいておくと手数料が取られている)。 
また、金利低下は長期金利にも波及しており、2016年7月には一時15年国債の利回りがマイナスになった。
つまり、15年保有していても名目のリターンはマイナスになるような価格で国債の取引が行われたということだ。
将来デフレが起こるか、一層の金利低下で債券価格が値上がりするという期待がなければこの取引は成り立たない。

私は現在の金融政策はかなり思い切ったことをやっていると思うのだが、いかがだろうか。
それでも物価へのインパクトがいまいちなのだ。

後半に続く(キートン山田)