タイトル:ワーク・シフト
著者:リンダ・グラットン(邦訳:池村千秋)
出版社:プレジデント社

著者のリンダ・グラットンは、ロンドン・ビジネススクールで経営組織論の教鞭をとる研究者だ。
本書は、著者が主催するコンソーシアムで多くの職業人と討議した内容が元になっている。
議論の主題は、来る2025年の世界はどうなっているか、またそれに対して我々はどのように働き方をシフトさせていけば幸福になれるか、である。
邦訳の出版は2013年だが、原著の出版は2011年。実際にコンソーシアムの場が持たれたのは2009年から2010年にかけてである。
すなわち、15年後の未来について多くの職業人が討議した内容に基いて本書は書かれている。
ちきりんの働き方の本は多分にこの影響を受けている。

本書は4章立ての構成を取る。

第一章では、未来に影響をおよぼす要因を5つの分野に絞り込む。
要因1:テクノロジーの進化
要因2: グローバル化の進展
要因3: 人口構成の変化と長寿化
要因4: 社会の変化
要因5: エネルギー・環境問題の深刻化

特に私の関心に合致するのは要因3と要因4だ。

人口動態の変化と多様性の時代

長寿化により、65歳定年までに老後の十分な蓄えが出来る人間の割合は減少する。
70歳を超えても働き続けるためには、どのような職業人生を送れば幸福になれるのか。
また、人口構成の変化によりY世代(1980年から1995年生まれ。ミレニアル世代とも言う。)の影響力が拡大する。
デジタルネイティブが増加し、ワークライフバランスと仕事のやりがいを重んじる世代の台頭がどのような変化をもたらすか。
Y世代の高齢層として私見を述べると、このような価値観は低成長への適応に他ならない。
老後の安定は失われた。
ゆえに現在に強烈にスポットライトを当てる必要があるのだ。

社会と価値観の多様化は、多くの人に自分の価値観と向き合うことを求める。
おそらく、第二次世界大戦を経験した我々の祖父母の世代は、これほどまでに内省的になる必要は無かったのではないか。
それは、社会の発展がもたらした余裕でもあるし、成長余力の減少がもたらした窮屈さでもある。

暗い未来と明るい未来

第二章では、架空の未来を生きる3人の人々を通して、変化に対して漫然と対応した場合に訪れる暗い未来を語る。
具体的には、「情報技術の発達により常に時間に追われる未来」「リアルなつながりが失われた孤独な未来」「成長分野の変化により成長に取り残された地域の未来」の3つの未来像が提示される。

第三章では、変化に対して適応することでもたらされる可能性について語る。
「テクノロジーの進歩と知識のデジタル化によりもたらされる、一つのテーマに対して多くの人々が協業することが容易になる社会」
「Y世代の台頭がもたらす働き方の多様化。すなわち、一人一人の欲する働き方の実現がより容易になる社会」
「先進国から新興国、大企業から個人へのパワーの移転によりもたらされる、ミニ起業家の台頭」

目指すべき3つのシフト

第四章では、総括として、予見される未来の変化に対して私たちはどのように働き方を「シフト」させればよいかを検討している。
一つは人的資本の向上。
ゼネラリストではなく、「連続スペシャリスト」となることを提言する。
二つ目は、孤立するのではなく、協働すること。
少数の信頼できる同士(ポッセ)を得ることを提言する。
三つ目は、消費から経験へ、賃金から満足度へのシフト。
人生に関する「古い約束事」は、「働くのは給料を得るため、そしてその給料でものを消費することで私は幸福になる」という価値観だ。
これから台頭するY世代は、この古い約束事を守った親世代の破綻と葛藤を見ている。
消費では幸せになれないし、給料を得るための会社への献身は報われない場合も多いということを知っているのだ。
自分の求める働き方は何なのか。それを理解して、シフトして行くことを提案する。

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未来を見据えた行動は、現在の多数派からは異端とみなされる。
幸福になるためには、自分の求めるものと、自分に与えられた選択肢、この二つをシビアに判断する必要がある。
そして、自分の決断を信頼し、勇気を持って進んでいく必要があるのだ。