昔と比べると、現代に生きる我々は、他人がどのように生活しているかを知ることが容易になった。
20年前はもとより、10年前まではここまで瞬時に他人の生活に関する情報にアクセスできなかったように思う。
インターネットは普及していたが、ネット上のコンテンツがここまで多くなかったからだ。
自分のリアルな知り合いに関する情報と芸能人のゴシップを除けば、他人に何があったかなんてほとんど気にしないで生きていたんじゃないだろうか。 

掲示板やニュースサイトで、生涯未婚率の上昇や交際相手のいない人間の割合が増えているというトピックがあると、以下のようなコメントが付くことがある。
「他人の生活に関する情報が広がりすぎたからだ。」
なんとも深い洞察だ。
言われてみれば、思い当たるコンテンツが2つある。

・統計情報

一つ目は統計情報だ。
白書のような行政機関が作成するものだけでなく、業界団体や企業、調査会社が様々な統計を出している。
ライフスタイルに関するもので言えば、平均年収や平均貯蓄、住宅購入時の年齢、初婚時の年齢、挙式の費用などだ。
以前はこういった情報は、業務上必要な人間が資料として持ち、業者に問い合わせた人間に伝えられていた。
もちろん、当時も調べる気になれば、図書館で公表時の新聞や雑誌を辿ることは出来たが、職業的な必要性のある人間でなかればなかなかそこまでしなかっただろう。
今はこれらの情報は、検索エンジンに打ち込めば瞬時に直近の調査結果が出てくる。
結果として、自分の収入や貯蓄について平均と比べて悩む人間や、まだ結構相手もいない段階から挙式にかかる費用を見て及び腰になる人間が増えたのだ。

・まとめサイト

二つ目はまとめサイトだ。
2ちゃんねるの生活関連や雑談系の板の真意不明の情報が、サイトのPVのためにセンセーショナルなヘッドラインを付けられてまとめられている。
例えば結婚や隣人トラブルだと
「トメやウト(姑や舅)が嫌がらせをしてくる」
「妻(夫)が浮気している」
「婚活サイトにはこんなに現実が見えていない女が登録している」
「子供が生まれるのに夫がパチンコ(やソシャゲ)で浪費する」
「妻が理解できない浪費をする」
「隣にDQNが引っ越してきた」
「子供の小学校の同級生のママが物を盗む」
また収入や労働環境だと
「有給取ろうとしたら罵られた」
「10年間ほとんど昇給がない」
「年収・ボーナス晒しスレには高収入の人間ばかり」
「後輩が仕事を覚えない」
「指導係に聞くと嫌な顔をされる」

思わず吐きそうになるトラブルが満載だ。
「所詮真意不明の匿名掲示板だよな」と頭では分かっていても、読んだ文章は無意識のうちに自分の思考の一部になる
結婚生活の不和に関する記事を読んで結婚についてネガティブなイメージを持った人間が増えたり、ブラック企業・低収入に関する記事を読んで就労前の学生が働くことについてネガティブなイメージを持つ可能性だってあるだろう。

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他人と比較して劣位にいれば辛くなるし、将来訪れるイベントに関するネガティブな情報を見れば不安になる。
他人がどうなってるかなんて知らないほうが心穏やかに生きられると思う。


と言いつつ統計の本の広告を貼ります。