抗酒剤という薬があることは吾妻ひでおの「アル中病棟」で知った。
抗酒剤は、アルコールの分解に必要な『アセトアルデヒド脱水素酵素』の働きを阻害する作用のある薬で、服用すると一時的に酒で非常に悪酔いする状態になる
脳に作用して酒が飲みたくなくなるわけではなくて、肝臓に作用して酒を飲むと悪酔いをするようにする薬だ。

ちなみに、禁煙外来で処方される禁煙薬「チャンピックス」は、ニコチン切れの症状を軽くする(タバコが欲しくなくなる)作用と、喫煙の満足感を低下させる(煙草を不味く感じさせる)作用の両方があると言われている。
抗酒剤の効果は後者に相当するものだ。

従って、酒をやめようというモチベーションがない人間には無意味だ。
抗酒剤が抜ければ、それまでと同様に酒を飲める体になる。
家族の指示や保護など、自分の意志以外でアルコール依存の治療を受ける人の中には、抗酒剤を処方されても飲んだふりをして捨ててしまい、家族に潜れて酒を飲む人もいるという。

私が主治医に言わてなるほどと思ったのは、これは「選択肢を無くす薬」だという説明だ。
私のような報酬系壊死ニキは、嫌なことがあったり、不安なことが先に待っていたりすると、酒の海にダイブして嫌な過去や不安な未来を殺したくなる。
抗酒剤を飲んでいる状態だと、酒を飲むという選択肢はなくなる。
酒で過去と未来を殺す前に、「酒を飲む」という選択肢を殺しておくのだ。

入手方法と種類

OTC薬(Over the Counter,薬局で買える薬)はないので、医師の処方を受ける必要がある。
私は精神科で処方を受けたが、中島らもの「今夜、すべてのバーで」では、内科の赤松医師から勧められていたので、必要なら内科でも処方されるのかもしれない。
日本で処方される抗酒剤には二種類あり、無色透明の液体の「シアナマイド」と白色の粉薬の「ノックビン」(ともに田辺三菱製薬)がある。
シアナマイドは即効性で即日効果が出るが、シアナマイドは効果がでるまでに3日程度かかるようだ。
まずシアナマイドを使ってみて、効きが悪い場合にノックビンが処方される傾向にあるとのこと。
私はシアナマイドが効いたので、ノックビンは飲んだことがない。

シアナマイドを飲んで酒を飲むとどうなるか

シアナマイドが効いている状態で酒を飲んでしまったことが1度だけある。
最後の服用から30時間以上時間が経っていたにもかかわらず、天罰てきめんな効き方をした。
(X日の朝にシアナマイドを飲んで、X+1の日はシアナマイドを服用せずその日の夜に酒を飲んだ。)

1本目を飲んでいる間は気にならなかったが、2本目の途中から効果が出た。
心臓バクバク、頭ガンガン、体フラフラ、顔真っ赤
マーライオンのように吐いた。
翌日のために自分で吐くのとは違う、胃からこみ上げるナチュラルな嘔吐だ。
自宅にいたがトイレまで間に合わず、ベッドの近くにあったゴミ箱に吐いた
(ゴミ箱が近くにあって本当に良かった。)

シアナマイドの薬効はどれくらい続くか

シアナマイドは効果の発生が早いが、効果が切れるのも早いので、毎日服用する必要があるとされている。
ちなみに、私の場合は一度服用すると、3日から1週間程度効果が続いた。
もちろん、毎日服用しないと薬効はどんどん下がる。
服用後に3日ぐらい間を空ければ、上で書いたような破滅的な状態にはならず「あ、平常時より酒に弱くなってるな」といった状態だ。
とはいえ、3日空いたくらいだとビール一本で完全に出来上がる状態ではある。

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抗酒剤は酒をやめたい気持ちがある人には有用だと思う。
自分から積極的に抗酒剤を服用する必要があるが、飲みさえすればその状態で酒を飲みたいと思う人はまずいないだろう。
とはいえ、抗酒剤が効いている状態で一回飲酒してみないと辛さが分からないとも思う。
禁酒の補助とするためには1回酒を飲んで苦しんでみないと効果が薄いというパラドキシカルな薬なのかもしれない。
※服用は医師の指示に従って適切に行なってください。