タイトル:テロルの決算
著者:沢木耕太郎
出版社:文春文庫(または『沢木耕太郎ノンフィクションⅦ 1960』(文藝春秋刊)にも収録)

1960年に発生した浅沼稲次郎暗殺事件に関するノンフィクション。
浅沼稲次郎刺殺事件は、当時野党第一党であった日本社会党の党首が17歳の少年に演説会の場で刺殺されるという戦後史に残る事件だ。
沢木氏は常々、夭折者の生涯に興味を持っており、本件の加害者である山口二矢(やまぐち・おとや)について書きたいと考えていたという。
本書は1977の後半に、当時30歳の著者が半年で書き上げた。
2004年に刊行された全集版では、事件と同年に発足した池田勇人内閣の掲げた『所得倍増』をテーマにした作品である『危機の宰相』と併せて収録されている。 
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新聞記者をしている友人が、この『テロルの決算』を沢木耕太郎作品の中で一番高く評価していた
私は一番最初に読んだ『深夜特急』や、無名の人間の生き様に焦点を当てた『人の砂漠』『地の漂流者達』の収録作を好んでいたので少し意外だった。
だが、働くようになって5年くらい経ち、自分が社外の不特定多数が読むような文書を書く機会を得ると、友人が本作を高く評価した理由が分かった。
『事実を正確に記述し、一つの物語にする。』
実在した有名な事件についてこれを行うことが、どれほど多くの文献や関係者へのインタビューに基づいているかを想像できるようになった。
それでいて、沢木の作品では、曖昧にぼかしたりエクスキュースの目的で使われる「逃げのための言葉」が徹底して排除されている
このような文体を貫くだけの確信が、調査と取材により醸成されているのだ。

時代が人を作る

浅沼が社会主義者となった理由について、本書では浅沼の社会党の友人の言を引用し「時流」と「人間」に求める。
大正六年のロシア革命、第一次世界大戦後の日本の資本主義の発展が生み出した大量の労働者、労働運動の高まり。
他の運動家の影響もあったものの、それと同等以上の影響を「時代」が浅沼に与えたのである。
もちろん、同時代に生きた人間が全員同じ思想に至るわけではない。
だが、人間が生きる以上、社会と世相の影響を否が応でも受けるということを改めて感じた。


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