タイトル:格差と民主主義(原題:BEYOND OUTRAGE)
著者:ロバート・B・ライシュ(訳:雨宮寛、今井章子)
出版社:東洋経済
 
著者のロバート・ライシュは、政府勤務を経てハーバード大学やカリフォリニア大学で教鞭を取る政治経済学者だ。
クリントン政権下で労働長官を務めた経験があり、オバマ政権にもアドバイザーとして関与している。
原題の"BEYOND OUTRAGE"の指す「怒り」は、2011年に発生したOccupy WallStreet(ウォール街を占拠せよ)のことである。
筆者によると、原著はその翌年の2012年の米国大統領選挙の最中で書かれたとのことだ。
奇しくも、先日2016年米国大統領選挙当日の報道の一つに、ライシュ氏のコメントを取り上げているものがあった。

著者は民主党政権に長く関与した人物である。
それゆえ主張は、経済活動の自由に価値を置きながらも、格差や差別の是正のための積極的な政府介入を良しとする中道左派のど真ん中だ。
本書でも、新自由主義的な市場の信奉者への批判は強烈だ。
特に、2012年の大統領選で共和党の大統領候補であったミット・ロムニー(プライベート・エクイティ・ファンドのベインキャピタルの創業者)など一部の共和党関係者の主張について『逆進主義』と呼び、一章を設けて論じている。

もちろん、書き方が一面的な部分も否めない。
例えば、契約社員や独立コンサルタントのような雇用形態が増えたことをマイナスと考えているが、ダニエル・ピンクの『フリーエージェント社会の到来』などを読むと、(コスト削減のための非正規雇用はともかく)成功した現代の自営業者はかなり充実感を持って仕事に取り組んでいる。
また、企業の多くが確定給付年金を廃止し確定拠出年金に移行したことをマイナスに評価するが、GM(やJAL)が企業年金を筆頭としたレガシーコストに押しつぶされたのも事実だ。

本書の主張をいくつか紹介したい。


超富裕層の報酬と課税

かつては、リスクを冒した成功者が大富豪となることはアメリカンドリームとして賞賛された。
現在では、大企業の上級経営者達ほど、リスクなく対価を得ている。
金融危機時の投資銀行やAIGのCEOは、在任中の業績悪化や株価下落にも係わらず多額の報酬を得た。
そして、度重なる減税により、第二次世界大戦から1981年まで70%を下回らなかった最高税率はここもとの30年間で35%まで低下した。
また、多くの富裕層はキャピタルゲイン税の15%税率を利用することから、実効税率はもっと低い(キャピタルゲインに対する税率も1980年代後半までは最大35%だった)。

民主主義とビッグ・マネー

本書でライシュは、「政府の大きさは本当の問題ではない。問題は誰のために存在するかだ。」と問題提起する。
ロビイング、政治献金、OBの受け入れを通して、大企業は政府に対して自分たちに有利な政策を求める。
すなわち、民主主義がマネーに脅かされているのだ。
この民主主義の危機という観点は、本書を貫くテーマの一つだ。
邦訳のタイトルに直訳では登場しない「民主主義」という言葉を入れたのは妙案だと感じた。

公共財と機会の平等

ライシュは公立学校、公共の交通インフラ、公共文化施設などの公共財が劣化していることに警鐘を鳴らす。
これは富の分配が富裕層に偏ったことの帰結である。
(経済的な余裕のある人間は民間のより高水準のサービスを使うことが出来るので公共財にあまり注意を払わない。)
公教育を筆頭に、公共財の劣化は機会の平等を脅かす
この格差が拡大すると公共財が劣化し機会の平等が担保されにくくなるというロジックは、他の格差是正の論拠と比べても説得力があると感じた。