帰ってきたマイナス思考に自信ニキ

他人の言うことに流されたり傷ついたりしないで、自分の頭で考えて生きていきたい。

カテゴリ: 読んだ本

タイトル:フラッシュ・ボーイズ
作者:マイケルルイス
出版社:文藝春秋

HFT(High Frequency Trade,高頻度取引)に関するドキュメンタリー。 
イメージの湧かなかったHFTの真実に迫るという内容それ自体に興味を惹かれた。
それだけでなく、人物描写と物語の構成もドラマティックであり、非常に面白い作品だった。

HFTという言葉を初めて目にしたのは2012年ごろだったと思う。
何気なく東証のホームページを見ていたら、コロケーションやプロキシミティという言葉に出会った。
株式のロングポジションから金融の世界に入った身としては、どうして高速で取引をすることで利益がでるのかがピンとこなかった。
私の知っている株式投資の世界は、市場で本源的な価値よりも過小評価している株式を購入し値上がり(または市場全体を上回るパフォーマンス)を目指すというものだった。
知識としては、ヘッジファンド的な手法として、過大評価されている証券をショートすることも知っている。
また派生商品をはじめとする他資産とのミスプライスやを収益機会とする裁定取引やレラティブバリューも理解している。
ただ、早く注文を出すことでどうして利益が上がるのかが分からなかった。
そういった背景の人間としては、読み進むにつれてパズルのピースが埋まるような感覚を覚えた。

作中で触れられた高頻度取引業者の最もベーシックな手法は、市場間で先回りすることだった。
一つの市場でミニマムの注文を出し他のトレーダーの需給動向を探る。
そして、相手が売り注文を多く持っていそうな場合には他の取引所などで価格が変わる前に先周りして買う。
ここで高速回線とコロケーションが生きる。
また、私がHFTをうまくイメージできなかったことの理由としては米国の株式市場では小規模な証券取引所への重複上場や投資銀行のダークプールの存在により、取引執行の場が多いことに対する理解が欠けていた点も大きい。
日本だと取引が東証に集中しているし、ダークプールもイマイチ流行っていない。
(一定規模以上になったダークプールは免許を取得し金融商品取引所としての規制のもとで運営することが金商法で定められているので、流行ってないからいないのだと理解している。)

劇中の言葉だが、このような高速取引業者の行動は、さながら税金のように投資家にのしかかってくる。
投資評価においては、マーケットインパクト(取引の執行に伴う価格の変動による、当初想定していた価格とのかい離)はブローカーの手数料と同じく取引執行に係るコストと考える。
この部分のコストが知らず知らずのうちに上がっていることになる。

当初この本にはあんまり興味がわかなかったのだが、それは邦訳版の帯に、「これでは一般投資家は絶対に勝てない」といったセンセーショナルな煽りがついていたのが幼稚に見えたからだ。
もっと株式市場の真実や新たなプレーヤーの存在についてフォーカスした文句にすればいいのにと思う。
人によっては、それだけ見て、やれ株式投資は博打だの、市場は操られているだの、これまた幼稚な意見を垂れ流すことになる。
 
取引コストの上昇は由々しき問題だが、全ての投資家がHFTと同じ戦い方をする必要はない。
個別銘柄でミスプライスを探すことでもいいし、時間分散でインデックスファンドを買うのでもいいし、市場見通しに従ってETFとFXと先物を組み合わせてグローバルの分散投資をしてもよい。
早く取引するだけがすべてではない。 


 

タイトル:世界をこの目で
作者:黒木亮
出版社:毎日新聞出版社

金融業界出身の経済小説家黒木亮氏のエッセイ集。
トピックは大きく分けると作品に関する話と、氏の生活に関する話に分かれる。
個人的に一番好きな氏の著作は「巨大投資銀行」なのだけど、その話は無かった。
私が金融業界を志し今でも働き続けているのは、「巨大投資銀行」で描かれていたような大きく経済のうねりの中に自分も身を置いて、プレイヤーとして世界のうねりに加わりたいという思いからだ。
投資銀行では働いてないけれど。

特に興味深かったのが、黒木氏の作家業についての文章の、特にデビューのあたりの話だ。
氏が自分の著書を文学賞に出したり出版社に送ったりしているうちに、編集者にこう言われる。
「あなたは国際金融のプロなのだから、国際金融の小説を書けばよい」と。
この言葉を受けて執筆されたのがシンジケートローンをテーマにしたデビュー作、「トップ・レフト」だったとのことである。
また、文章修業についての一稿で、稟議書の追加説明資料などの仕事で書く文章も文章修業の一環になったという姿勢には励まされるものがあった。
私も仕事でそれなりの量の文章を書く。
定型的なものや証跡として作成するものもあるけれど、概ね好きだし工夫しながら書いている。
 
サハリンや中央アジアに関する記述は紀行文としても面白かった。


世界をこの目で
黒木 亮
毎日新聞出版
2015-11-27



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