タイトル:さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ
著者:永田カビ
出版社:イーストプレス

著者の永田カビさんは美大を中退してフリーターをした後、漫画家として活動している。
本書は、28歳・人と付き合った経験なし・性行為経験なしの著者が一念発起してレズ風俗に行く話。
ウェブで電子書籍版の広告が頻繁に出ていたので、絵を見たことがある方も多いと思う。
また、今月刊行されたこのマンガがすごい2017ではオンナ編第3位であった。
ソーシャルスタディの本ではないのでレズ風俗の業態や構造に関する研究が出てくるわけではなくて、生きにくさを抱えた人間が自分の過去や現在と向き合うというもの。
認知の歪みや独特な苦悩も出てくるので「なんやこれ?」という感想を持つ人もいるかもしれないが、うつ体質の私は相応に感情移入しながら読んだ。

資格と承認

本書の序盤で、永田さんには摂食障害だった時期があると語られる。
拒食状態だったときに「自分にはものを食べる資格がない」と考えていたとのこと。
また、家族の承認を求めて正社員にこだわって就職活動をして疲労困憊してしまう場面もあった。
自分もその気があるので良く分かるのだが、自己評価が低いと他者からの承認を求めてしまう
その場合、承認を得られているうちはよいのだが、それが無くなったときに自己評価を維持できない。
自分で自分の存在を肯定するのは、生き難さを抱えた人間にとって共通の課題なのかもしれない。

「セックスさせてくれるお母さん」

Twitterである女の人が「男は女にセックスさせてくれるお母さんを求めている」というツイートをしていたらしい。
永田さんは「あー、私それすごくわかる!」とすごく共感する。
紛らわしいのだが、男性がそうだということではなく、永田さん自身がそうだということだ。
この意見については、女から見た男像なので一面的だと感じるし、率直に言って気持ち悪い表現だと思った。
ただ、「初めて見たものが認識の原型になり、その原型を無意識に求める」と考えるとあり得そうな話ではある。
(オイディプスは母親を認識する前に離れているのでちょっと違うと思う。) 
そして、女性である著者がこの意見に共感したのはとても面白い。

「甘い蜜」を探して

今までずっとどうしてみんな生きていられるのか不思議で仕方なかった
きっとみんな何か、私の知らない「甘い蜜」のようなものを舐めているのだと思った

この「甘い蜜」という考えが本書の総括として使われる。
私見を述べると、「甘い蜜」は「自己肯定」なのだろうと思った。
著者はこの作品の原型に当たる漫画がPixivで評価されたことでひとまず「甘い蜜」を手に入れた。
甘い蜜は他者からの承認やつながりの中に見出してもいいし、自分の中から湧き出るものに見出しても良い。
わたしは可能であれば、他人に頼るのではなく、自分自身で自己を肯定できるようになりたいと思う。
最初の項でも述べた通り、他者からの承認に生きる意味を見出すと、それを失った時のショックが大きいし、ともすれば従属的になってしまうからだ。

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著者の新作の『一人交換日記』についてもそれと絡めた話を書いているので、興味があればご覧ください。
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